「君のクイズ」の面白さは、「質的な差が量的な差に還元されていく過程の面白さ」で説明できると思った。
※本記事は小川哲「君のクイズ」のネタバレを含みます。
続きを読む本を読んで得た知識、いつもやる仕事の手順やTipsを面倒くさがらずにまとめておき、再利用可能な状態にしておくことは、結果的に複利的な価値を生み出す。
理由を二つ挙げる。第一に、再利用可能なナレッジは、認知資源と時間を節約する。この再利用性は一時的なものではなく、株式の配当のように節約効果がずっと持続する。節約された認知資源と時間は、そのまま余裕として確保するのは勿論、さらなるナレッジを生むために再投資すれば、複利的にナレッジと認知資源と余剰な時間を生み出すことができる。
第二に、再利用なナレッジがたくさんたまると、ナレッジ同士がつながる確率が上昇することで、ナレッジの集合自体の価値が飛躍的に高まっていく。
これらの二つの作用(節約&再投資による複利の効果と、蓄積によるナレッジ全体の価値向上)により、大きな仕事を実現できる。というか、他人や過去の自分が考えてまとめてくれたナレッジを活用しなければ、知的な意味で大きな仕事は成し遂げられない。
この様子は資本主義にも似ている。蓄積したナレッジは資本となり、複利的に巨大化する。大きなナレッジの集合は、認知資源と時間の節約という形で果実をもたらしてくれる。
続きを読む本記事は元論文の全訳ではなく、面白いと思った部分をピックアップしてエンタメとして紹介するものです。
元論文: Griskevicius, Vladas et al. “Going along versus going alone: when fundamental motives facilitate strategic (non)conformity.” Journal of personality and social psychology vol. 91,2 (2006): 281-94. doi:10.1037/0022-3514.91.2.281
人が他人と意見をあわせたりあわせなかったりするのには、どういう要因が関係しているだろう?
防衛が必要なとき。悪目立ちをしないため、あるいは仲間と一緒になって敵を追い払うために、仲間と一緒にいたくなる傾向がある。
性的パートナーを見つけたいとき。目立って社会的優位性を示したいと思ったり(男性)、協調性を示すために悪目立ちを避けたいと思う傾向がある(女性)。
他の要因として、他人と意見を合わせるということが肯定的なメッセージを発するのか、否定的なメッセージを発するのか ということも関係がありそう。美術館で絵を評価する場面では、いい絵だと評価することは肯定的なメッセージを発する。性的パートナーを見つける場面では、男性は「他の人とはちがって自分だけはいい評価をするぜ」というメッセージを発する動機がある。女性の場合は「他の人とは違って自分だけは悪い評価をする、とは思われたくない」という動機がある。
上述の、①性別 ②場面 ③メッセージの性質によって、同調性が実際に変化するのかどうかを確かめるために、研究1では次のようなデザインのもと実験を行った。
この条件のもと、被験者自身の絵への評価を回答させた。これが本実験の従属尺度(とりたい目的となるデータ)となる。
研究1では、男性は恋愛プライミング条件を与えられると、周囲の意見が否定的であってもプラス評価をする傾向があることが示された。しかし、一般的に周囲の意見に同調しておくことは意思決定の正確さにつながるため、非同調は適応的でないように思われる。これは不可解だ。
この不可解さを解決するための鍵は、判断の内容が主観的な意見なのか、客観的な答えをもつものなのか にあるかもしれない。客観的な答えを持つトピックでは、同調して正解を引く可能性を上げた方が、非同調して賭けに勝つよりもメリットが大きい。一方、(研究1と同様)主観的なトピックでは、非同調してプラス評価をすることで好意的なメッセージを送ることに男性にとってのメリットがある。
したがって本研究2では、恋愛的な動機の下、主観/客観のトピックおよび男女の別が、意見の同調性に対してどのように影響するかを検証した。
このように、主観的質問では、どちらを選んでも望ましさに大差なさそうなものが選ばれた。これにより、研究1の好意的・非好意的メッセージの次元を中和することができる。 各質問はランダムな順番で示された。被験者は、回答を7段階(確実に選択肢A=1、確実に選択肢B=7)で行った。 回答のとき、「他の回答者の回答割合が見えちゃうけど、気にしないで回答を続けるように」と指示された。このときの他の回答者の回答割合とされる数値は、どちらかの回答(選択肢Aか選択肢B)に強く偏っているようにした。 多数回答と質問項目の組み合わせは、被験者によって変化させてランダム化した。
これまでの研究は、「パートナーを得られるかも?」という動機がどのように同調性に影響を与えるかについて正確に明らかにしてこなかった。
そこで次のように仮説を立てた:男性はパートナーに向けて自身をアピールするために自己主張をする。100人規模の大きな集団であれば、90:10のうちの10側に入ればある程度目立つことができる。しかし5人規模の小さな集団で目立とうとしたら、3:2のうちの2側に入るだけでは十分に目立つことができないため、同調する意義が小さいのではないだろうか?4:1のうちの1側になれるときだけ、同調しようとするのではないか?女性の場合には、自身が集団の結束により役に立つことをアピールしようとするならば、集団が2:1で分裂しているときに2の側につくことはそれほど意義がないのではないだろうか。
人々の意見の同調性について調べた研究1〜3で、次のことを確かめられた。
*1:プライミング効果とは、ある刺激(先行刺激)を受けた後、しばらくの間もとの刺激の影響が無意識下で継続し、後続の刺激に対する反応に影響を与えるというもの。「老人について書かれた文章を読ませた後、歩く速度が遅くなる」などが有名。ファスト&スローなどで詳しく紹介されている。
*2:本文中に明記がなかったけどそう解釈しました
*3:ブログ筆者注: 1つまたは2つ以上の要素(因子という)を何パターンかに変化させて、結果への影響がどの程度強く現れるのかを調べる統計的手法を分散分析という。分散分析では、因子が単独でもたらす効果(たとえば本実験であれば「基本的に女性はいつでも同調性が高い」とか)も調べるし、複数の因子の組み合わせがもたらす効果(「プライミングと性別とトピックの組み合わせが特定の場合だと同調性が大きく変化する」のように)も調べる。後者のような効果のことを因子の交互作用という。3つの因子の交互作用であれば、3元交互作用という。
*5:論文内の考察では、「研究2と同様」女性側の同調は有意でなかったとあった。うーん?
*6:本研究の動機は、「パートナーを得られるかも?」という動機がどのように同調性に影響を与えるかを明らかにしたいというものだった。
*7:どこを気にしているんだろうか?は自分には読み取れなかった。。
昨年は「インプットを重視していたのでそんなに更新できませんでした」とか言っておいて、そんなに数読んだわけではなかったですね。
今年は仕事がめちゃくちゃ忙しかったのですが、活字を追うペースが上がったのと、本を読むことで心と精神を仕事から解放できることに気づいたので、1週間に1冊のペースでこつこつと読書を続けることができました。たくさんの面白い本に出会えたので、今年出会った本のマイベストを一言ずつ紹介して本年を締めくくろうと思います。 面白かった方から順に10冊紹介します。
以前紹介したこの本が今年一番面白かったです。欲望は私たちの活力になってくれる一方、無制限に満たし続けるわけにはいきません。幸せに生きるとは?を考えるときに、その根源にあって上手に付き合う必要があるのが欲望です。なんとなく直視しづらい、私たちの心の奥底にある「欲望」について理解を深めるための一冊です。
私は「山の上で食べるカップラーメンが世界で一番おいしい」という持論があるので、食事のおいしさというものは味よりもシチュエーションで決まることは気づいていました。本書はそういうテーマも扱っているのですが、それだけでなく「しけったポテチでもパリパリ音を聞きながら食べるとおいしさが復活する」のような、おいしさを感じる心に潜むバグのようものをハックする試みがたくさん載っていてへぇ〜!となって楽しいです。また、こういった「おいしさの錯覚」を逆手に(正当に?)使って、本気で最高の食体験を実現しようとしている人たちが紹介されていて、ホスピタリティに心を打たれました。
「どうして人のものを盗んではいけないの?」「とまと君も自分のおもちゃとられたら嫌でしょ。自分がされたら嫌なことは人にもしちゃいけないんだよ」「どうして、自分がされたら嫌なことは人にもしちゃいけないの?」「・・・」こういうレベルで、道徳のそもそもを考えるのがメタ倫理学です。なぜかわかりませんが道徳のそもそもを考えるのは反社会的で、深掘りしちゃダメな領域な気がするんですが本書では真正面から向き合います。この感覚を踏まえたあとがきがまた良いんだ!!
心理学が好きで個別トピックでは結構追いかけているつもりなのに、総論・体系的な勉強をしていないなと思ったので入門的に図書館で借りてみた一冊。大学の学部レベルの教科書?っぽい雰囲気でした。特徴的なのは、単に心理学的な実験や事実・理論を紹介するにとどまらず、進化心理学の観点から人の心がそうなっている理由を説明しているところです。人が集団から排除されると孤独を感じるようになっている理由とか、集団の中で一人だけずるをしている人間を排除したくなる理由とか。「人の心は○万年前のサバンナで暮らしているときから変わっていない、的な言説は散々聞いて飽きてきた」とかいう意見もちらほら聞くようになってきた昨今ですがやっぱりこういうの好きです面白いです。
定番の行動経済学本。私は先に「ファスト&スロー」を読んでしまったので、それよりも内容が薄い気がしていて(失礼)読むのをほったらかしていたのですが読んでみると面白い!そしてやさしい!行動経済学の知見を、ただ面白いだけにとどめずに、「あなたの生活に落とし込むと・・・例えばこんな感じはいかがだろうか?」というアドバイスも入っていてちょっとしたビジネス本としても読めます。知的好奇心あるタイプの人だったらほとんど誰にでもおすすめ。
私たちはの身の回りにはファスナーや自転車など、そばにいつもあって見慣れていて使いこなせていて、そんなもの簡単に説明できると思っているものがたくさんあるけれど、しっかりと説明してくださいと言われると意外とそれができない!!・・・というところから始まり、さんざん私たちの無知を暴いたあとで、では私たちは知識をどう蓄えて活用しているのか?ということに迫っていきます。賢さの定義が変わる。
人類通史系。上巻では歴史的に経済的豊かさがもたらされた原因について、一つ一つ丁寧に見ていきます。下巻ではその豊かさが人類にもたらした影響について扱います。今年の初めくらいに資本主義批判の文脈で読んだけど、いま読んだらまた違った視点で読めるかも。
これまでは人間の欲求を満たすときに多かれ少なかれ他の存在を傷つけていたかもしれないし、誰かが我慢していたかもしれないね。完璧な夫婦関係とはほど遠いし、出産の痛みは薬で軽減できるけれど完璧ではない。でもこれからのテクノロジーは、そういった悩みから私たちを解放してくれる!!!・・・本当にこのままでいいのかな。
「仕事の楽しさについて」での主要参考文献。仕事・キャリアについて考えるときに幅広い視点を与えてくれる良書です。
恋人関係に悩んでいるときに読んだ一冊。名著です。本書と「人を助けるとはどういうことか」(エドガー・H・シャイン)を読んで以降、ホスピタリティとか「個々を見て対応する」という態度が好きになったような気がします。僭越ですがさびしさ欲望回で書いた「人間の行う儀式とか社会的な絆を確かめ合うような行為はすべて同根である」説は本書にもそのまんま書いてあって、だよねー!と思った記憶があります。
以上!来年も素敵な本に出会えるといいな。良いお年を!!
明日10月9日は応用情報技術者試験 秋期の試験日です。 IT業界入って5年目で今更感ありますがまあ持ってないのもどうかなと思ったので明日受けてきます。
最初のころは必死こいて勉強してたのですが、途中から「あれ、これもう頑張らなくてもいけるわ」と気づいたのでぱったり勉強するのをやめました。
二項分布は、YES/NOで判定できて確率で起きる出来事を何度か繰り返したとき、YESとなる回数を確率分布にしたもの(グラフにしたもの)です。
試験問題も同様に考えられます。
*1:あくまで確率でとらえればの話です。まあそれを言ったら、コイン投げやサイコロは確率事象なんですかね?