本記事は元論文の全訳ではなく、面白いと思った部分をピックアップしてエンタメとして紹介するものです。
元論文: Griskevicius, Vladas et al. “Going along versus going alone: when fundamental motives facilitate strategic (non)conformity.” Journal of personality and social psychology vol. 91,2 (2006): 281-94. doi:10.1037/0022-3514.91.2.281
研究1
人が他人と意見をあわせたりあわせなかったりするのには、どういう要因が関係しているだろう?
防衛が必要なとき。悪目立ちをしないため、あるいは仲間と一緒になって敵を追い払うために、仲間と一緒にいたくなる傾向がある。
性的パートナーを見つけたいとき。目立って社会的優位性を示したいと思ったり(男性)、協調性を示すために悪目立ちを避けたいと思う傾向がある(女性)。
他の要因として、他人と意見を合わせるということが肯定的なメッセージを発するのか、否定的なメッセージを発するのか ということも関係がありそう。美術館で絵を評価する場面では、いい絵だと評価することは肯定的なメッセージを発する。性的パートナーを見つける場面では、男性は「他の人とはちがって自分だけはいい評価をするぜ」というメッセージを発する動機がある。女性の場合は「他の人とは違って自分だけは悪い評価をする、とは思われたくない」という動機がある。
上述の、①性別 ②場面 ③メッセージの性質によって、同調性が実際に変化するのかどうかを確かめるために、研究1では次のようなデザインのもと実験を行った。
実験デザイン
- 被験者は心理学入門のクラスから募集され、男性113名、女性124名が参加した。
- 被験者は芸術的な絵40枚(たくさんあるデータセットの中から抽出され、他の被験者とは異なるように思わせた)を見せて、それぞれ1(全く面白くない)から9(とても面白い)までの9段階で評価するよう支持された。ちなみにこのうち39枚の絵はフェイクで、1枚の絵だけが次以降の手順で重要となる。
- 被験者は次の4つの条件のうちどれかに割り当てられ、異なる操作を受けた(プライミング操作)。*1
- 被験者は「これから他の同性の被験者3名と一緒に、美的嗜好についてディスカッションしてもらいます。その前にまず、こちらの絵について評価してください」と伝えられる。この絵は手順2で事前に得点を評価しておいたものと同一であるが、被験者本人にとってはたくさんあるデータセットの中からランダムに1枚選ばれたものだと思っているので、他の被験者は初見である可能性が示唆された。絵を評価する際には、「他の被験者3名」には実際に会わずコンピュータ上で評価を行った。このとき、「他の被験者3名」がどのような評価を行ったかわかるようにされた(つまり順番に評価を行い、自分が最後の順番になっているようにされた)。実際には他の被験者3名はおらずコンピュータで回答がコントロールされていた*2。回答者はさらに2群にわけられ、「他の被験者3名」の回答が次のようにコントロールされた。
- 肯定的回答条件: 8点, 8点, 7点
- 否定的回答条件: 2点, 2点, 3点
この条件のもと、被験者自身の絵への評価を回答させた。これが本実験の従属尺度(とりたい目的となるデータ)となる。
実験結果
- 対照条件(中立プライミング条件と非プライミング条件)では、肯定的回答条件でも否定的回答条件でも、同調的(意見を他の被験者3名とあわせる)な回答をしていた。男女間での有意差なし。2つの対照条件間の有意差なし。
- 脅威プライミング条件では、対照条件にくらべて同調性が高まった。この効果は男女とも差が無く、肯定的回答条件・否定的回答条件の別も関係なかった。
- 恋愛プライミング条件では、予想通り男女で異なる結果が得られた。
- 男性の場合、周りの判断が否定的であれば、非同調的(つまり「自分だけはこの絵を評価するぜ!」)な評価を行った。一方、周りの判断が肯定的なとき、同調も非同調も示さなかった(対照条件と同程度)。
- 女性の場合、周りの判断が肯定的であれば、同調的(つまり「自分もこの絵を評価するわ!」)な評価を行った(対照条件よりもさらに強い同調性を示した)。一方、周りの判断が否定的なとき、同調も非同調も示さなかった(対照条件と同程度)。
考察
- 脅威プライミング条件では、身を守りたいという動機により同調性を高めたと考えられる。
- 恋愛プライミング条件で男性が否定的回答条件下で非同調したのは、あえてプラス評価をするということで好意的なメッセージを送れるからだと考えられる。一方女性が否定的回答条件下で同調しなかったのは、同調しても好意的なメッセージを送れないからだと考えられる。
研究2
研究1では、男性は恋愛プライミング条件を与えられると、周囲の意見が否定的であってもプラス評価をする傾向があることが示された。しかし、一般的に周囲の意見に同調しておくことは意思決定の正確さにつながるため、非同調は適応的でないように思われる。これは不可解だ。
この不可解さを解決するための鍵は、判断の内容が主観的な意見なのか、客観的な答えをもつものなのか にあるかもしれない。客観的な答えを持つトピックでは、同調して正解を引く可能性を上げた方が、非同調して賭けに勝つよりもメリットが大きい。一方、(研究1と同様)主観的なトピックでは、非同調してプラス評価をすることで好意的なメッセージを送ることに男性にとってのメリットがある。
したがって本研究2では、恋愛的な動機の下、主観/客観のトピックおよび男女の別が、意見の同調性に対してどのように影響するかを検証した。
実験デザイン
- 被験者は心理学入門のクラスから募集され、男性38名、女性31名が参加した。
- 被験者は研究1と同様、プライミング操作を受けた。プライミング条件として、次の2種類が用意され、いずれかに割り当てられた。
- 被験者は6種類の質問に回答するよう指示された。質問は次の通り。
- [主観的] メルセデスベンツとBMW、2つの高級車のうち選ぶならどちら?
- [主観的] 車の色を選ぶ場合、シルバーとフォレストグリーンのどちらの色?
- [主観的] フェラーリとランボルギーニ、2つのスポーツカーのうち選ぶならどちら?
- [客観的] ニューヨークに済むのとサンフランシスコに住むのでは、物価が高いのはどちら?
- [客観的] サウスウエストとアメリカウエスト、どちらの航空会社の方が定時到着率が高い?
- [客観的] 緑色のシャツと青色のシャツでは、どちらのほうが日差しを遮り涼しいか?
このように、主観的質問では、どちらを選んでも望ましさに大差なさそうなものが選ばれた。これにより、研究1の好意的・非好意的メッセージの次元を中和することができる。 各質問はランダムな順番で示された。被験者は、回答を7段階(確実に選択肢A=1、確実に選択肢B=7)で行った。 回答のとき、「他の回答者の回答割合が見えちゃうけど、気にしないで回答を続けるように」と指示された。このときの他の回答者の回答割合とされる数値は、どちらかの回答(選択肢Aか選択肢B)に強く偏っているようにした。 多数回答と質問項目の組み合わせは、被験者によって変化させてランダム化した。
実験結果
考察
- 研究1とは別の同調性尺度を用いたにもかかわらず、(主観トピックを用いた実験により)研究1と似たような結果を再度得ることができた。
- トピックが主観的なのか客観的なのかで、同調性に差が起きることが示せた。客観的なトピックでは間違って恥をかく可能性があるが、主観的ならそれが無いため、男性がより自己呈示的になることを確認できた。
- 本研究2では、質問への回答は他人と共有されなかった。にもかかわらず今回の結果のように恋愛プライミングの効果が持続することが判明したのは注目に値する。
研究3
これまでの研究は、「パートナーを得られるかも?」という動機がどのように同調性に影響を与えるかについて正確に明らかにしてこなかった。
そこで次のように仮説を立てた:男性はパートナーに向けて自身をアピールするために自己主張をする。100人規模の大きな集団であれば、90:10のうちの10側に入ればある程度目立つことができる。しかし5人規模の小さな集団で目立とうとしたら、3:2のうちの2側に入るだけでは十分に目立つことができないため、同調する意義が小さいのではないだろうか?4:1のうちの1側になれるときだけ、同調しようとするのではないか?女性の場合には、自身が集団の結束により役に立つことをアピールしようとするならば、集団が2:1で分裂しているときに2の側につくことはそれほど意義がないのではないだろうか。
実験デザイン
- 被験者は心理学入門のクラスから募集され、男性118名、女性97名が参加した。
- 以後の手順は研究2とほとんど同じ。以下の点のみが異なる。
実験結果
- 中立プライミング条件(対照群)では、性別による有意差なし。
- 主観項目で意見が4:0になっているとき、性別とプライミングの効果が有意に認められた(2元交互作用が現れた)。男性であればプライミング下で非同調、女性であればプライミング下で同調*5。
- 主観項目で意見が3:1になっているとき、意見の同調性・非同調性はプライミング・男女にかかわらず認められなかった。
- 客観項目でも、意見が4:0になっているときはプライミングの効果が有意に認められた(研究2と同様)。
- 客観項目で意見が3:1で割れているときには、プライミング・男女にかかわらず同調も非同調もしなかった。
考察
- 恋愛プライミング条件・男性・(小規模集団では)他メンバーの全会一致 という条件のみで意見の非同調性が認められたことで、恋愛動機が男性の自己呈示にどのような影響を与えるのかが見えてくる*6。全会一致であれば、自分だけ違う意見を述べることで自分を目立たせることができるが、意見が割れている場合に少数派についたところで自分を目立たせることにつながりにくい。
- 女性の場合には、他メンバーが全会一致しているときには自分だけ違う意見を言わないようにする動機が強く存在するが、すでに意見が割れている場合にはそのように同調する動機が小さくなる。
- 同調性は、多数派の割合のほかに集団のサイズにも影響される。従って本研究3の結果は、研究2の結果とは矛盾しない*7。
まとめ
人々の意見の同調性について調べた研究1〜3で、次のことを確かめられた。
- 脅威を感じ、危険から身を守りたいと思うとき、一般に同調性が高まる。
- この現象は、集団が持っている意見が肯定的であっても否定的であっても見られる。
- 恋愛の動機を感じ、異性の気を引きたいと思うときに同調性が変化する。この効果は男性と女性で異なる方向性を示す。
- 男性の場合、①主観的な話題で、②自分以外の意見がまとまっていて、③あえて同調しないことで好意的なメッセージを送れそうなとき に非同調性が高まる。
- 女性の場合、①主観的な話題で、②自分以外の意見がまとまっていて、③同調することで好意的なメッセージを送れそうなとき に同調性が高まる。
- 男性でも女性でも、①客観的な話題で、②自分以外の意見がまとまっているとき に同調性が高まる。
- 恋愛動機の効果は、集団が同性であっても(研究1)、自分の意見を公表しない場合であっても(研究2、3)現れる。
*1:プライミング効果とは、ある刺激(先行刺激)を受けた後、しばらくの間もとの刺激の影響が無意識下で継続し、後続の刺激に対する反応に影響を与えるというもの。「老人について書かれた文章を読ませた後、歩く速度が遅くなる」などが有名。ファスト&スローなどで詳しく紹介されている。
*2:本文中に明記がなかったけどそう解釈しました
*3:ブログ筆者注: 1つまたは2つ以上の要素(因子という)を何パターンかに変化させて、結果への影響がどの程度強く現れるのかを調べる統計的手法を分散分析という。分散分析では、因子が単独でもたらす効果(たとえば本実験であれば「基本的に女性はいつでも同調性が高い」とか)も調べるし、複数の因子の組み合わせがもたらす効果(「プライミングと性別とトピックの組み合わせが特定の場合だと同調性が大きく変化する」のように)も調べる。後者のような効果のことを因子の交互作用という。3つの因子の交互作用であれば、3元交互作用という。
*5:論文内の考察では、「研究2と同様」女性側の同調は有意でなかったとあった。うーん?
*6:本研究の動機は、「パートナーを得られるかも?」という動機がどのように同調性に影響を与えるかを明らかにしたいというものだった。
*7:どこを気にしているんだろうか?は自分には読み取れなかった。。