思索日記

本を読んで思ったことを書いてます。

恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白

稲葉圭昭「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」は、北海道で銃器犯罪を取り締まっていた警察官である著者の自伝で、稲葉事件 を扱った本です。 日本で一番悪い奴ら というタイトルで映画化もされています。 著者は警察官なのですが、覚醒剤使用、覚醒剤営利目的所持、銃刀法違反の罪で2003年に有罪判決を受け、服役しているということが本書の冒頭で明かされます。 本書は、警察という組織の闇を告発する ために、稲葉氏が警察官としての半生を振り返る、という体で進みます。

なお、本書はややハードめな薬物取引・使用描写を含みます。

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見どころ・おすすめポイント

重いテーマのように見えて、軽くて読みやすい

本書は薬物、銃器犯罪、暴力団といった、いわゆる裏社会が舞台ですので、なんだか暗くて重くて刺激的に思えます。 しかしかなり意外なのですが、本書は以下のような理由で軽くて読みやすいです。

  • ですます丁で、やわらかめな語り口。
  • 半生を綴ったストーリーなので、読むだけで簡単に流れを掴むことができる。がっつり気合いを入れて理解しよう!という感じではない。
    • 登場人物という概念があるタイプの本なので、そういう文章に慣れていた方が読みやすいというのはあると思う
  • 特徴的な業界用語が結構含まれているけど、ちゃんと説明がある。
  • ページ数が少ない。

軽いとはいっても物語のように進んでいき、抑揚はあります。ヤクザから銃を突きつけられるところとか、読んでて普通にドキドキします。

警察と裏組織の闇に染まっていく稲葉

著者であり主人公である稲葉は、警察に入り、機動隊を経て銃器対策課に配属されます。銃器対策のエースと呼ばれることもありました。その稲葉が、最終的になぜ逮捕され、有罪判決を受けるようになったのか。

銃器対策に携わるということは、当然銃器と隣り合って仕事をしていくということです。その過程で、取締るべき相手である裏社会の人間と交流することも必然的に起こりえます。 「そんな裏社会の人間と交流しても、芯の部分では警察官だから、"そっち"に持っていかれることはないはず。」と信じているからこそ、我々市民は警察(マル暴 = 暴力団対策課)を信頼しているわけです。 で、最初はそう信じて読み進めていくわけですよ。おとり操作とか、暴力団の人間との取引とか、かなり際どいこともやっていますが、まあ本来の目的は忘れちゃいないと信じているわけです。 それがだんだんとたがが外れていきます。 しかも警察という組織丸ごと 。この、警察という"正義の味方" への安心感が裏切られていく痛快感を楽しむといいと思います。いや、痛快とか言ってる場合じゃないんですが。 勢いで裏切られていくと書いてしまいましたが、ちょっと語弊あるかも。「気づいたら本来の目的を忘れてしまって、とんでもないところに来てしまった」と言った方が正確かもしれません。

警察という正義の味方の裏舞台が単純に面白い

警察署っていまだに昭和とか平成初期のにおいがするというか、古臭い感じとか、そんなイメージがあるじゃないですか(偏見)。 街中でパトカーとかはよく見かけるけれど、警察という組織自体が普段どんなことしてるのかとか、そこにある人間関係とか、そういうものは我々市民にはあまり馴染みないです。 本書では、(銃器対策課というちょっと特殊ではあるけれども)警察官の日常めいたものが結構見られて、普通に面白いです。似てるのだと記者モノとかが近い雰囲気なのかな。男くさくて昭和っぽくて、いかにも刑事モノって感じです。

実績だけを追いかけて暴走する組織

警察でも会社でもなんでも、いろんな組織で、実績を元に成績をつけられ比較されるということはありがちだと思います。特に営業とか。 その裏で実績を盛ったりごまかしたりすることも、まああり得るとは思います。それが個人レベルではなく、組織レベルになってくると、エンタメ性が増します 社会的影響力はかなり大きくなります。 例えば私が好きな、スルガ銀行の不正融資問題も、無茶な数字目標と不正行為・それを黙認する組織が絡み合った事件でした。

本書で語られている警察の問題もまた、無茶な数字目標と不正行為・それを黙認する組織が絡み合っています。黙認というか、不正行為の奨励です。警察の金でヤクザから拳銃買って、それを「摘発件数」にカウントするとか普通に出てきます。なんかこの、不正のオンパレードというか、インフレ感というか、そういうのが個人的に好きなんですよね。スルガ銀行の件も、「100件中99件はなんらかの不正行為」みたいなパワーワードが登場して笑っ・・呆れちゃいます。

補足

読み方

気をつけるべきこととかはあんまりないです。ストーリーのようになっていて、簡単に読み進めることができます。

一応重要な登場人物めいたものがいて、ちょっと久しぶりに登場するみたいなことが何度かあります。冒頭に登場人物のまとめがあって、そこに指を引っ掛けて読むみたいなことができるとちょっと楽かな?と思います。ちなみに自分は電子書籍派で、そういう器用なことはしませんでした。

勧めたい人

  • 薬物描写に敏感な人は絶対読んじゃダメ!
  • 警察、暴力団、裏社会めいたものが好きな人
  • 組織全体が暴走していく様子に興味がある人

好きなエピソードなど

本書はストーリー仕立てでありネタバレになりやすいので、本筋と関係あるエピソードの紹介はやめときます。 あまり関係ない箇所で、面白かったエピソードを1つだけ紹介します。

北海道のヤクザ vs 東京のヤクザ

東京のヤクザが、北海道進出の視察として北海道にやってきた時の話。 東京の暴力団は、観光バスで北海道へやってきて、警察は彼らが地元の暴力団とぶつからないよう、高速道路を封鎖したりして、彼らを山奥のホテルに閉じ込めました。その時の文の引用です。

東京のヤクザは黒スーツに白シャツ、ネクタイをしめて身なりを整えている。それに比べて北海道のヤクザは、顔がばれないように頭にホッカムリをしているのです。その一点だけ見ても、地力の差は明白でした。地元のヤクザは、あろうことか、ホテルに向かって石を投げだした。

本との出会い

  • 友人の勧めでした。

奥付

恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白
稲葉圭昭
2016年
講談社